カネノナルキ

思ったことを気ままに書きます

植物大好きなタクシー運転手と出会った話

今週のお題」植物大好き というフレーズを見て思い出した話がある。

仕事がら都内の移動に時々タクシーを利用しているが、4月の半ば頃に素敵な運転手さんとの出会いがあった。

タクシー運転手というのは本当に人それぞれだ。

狭い空間で誰も彼らの仕事ぶりを監視していないからか、運転の仕方から乗客とのコミュニケーションの取り方ひとつひとつに個性がにじみ出る。

マニュアル化されている電車やバスにはない面白さがそこにはあるのだ(もちろん、荒い運転に苛立たされることも少なくないが)。

平日の昼下がり、僕がタクシーの後部座席に乗り込むと、

「桜ももう散っちゃいましたねぇ。」

彼はそう切り出した。

川沿いに並ぶ桜が有名な道だ。ここまではよくある会話の流れだろう。

ところが彼は、僕が残念ですね相槌を打つと、続けざまに目的地までの道のりに咲いている植物について語り始めた。

ここの梅がきれいなんだ、ここには立派な百日紅が生えているんだと、彼は運転しながら僕に景色を眺めるよう促した。

品川辺りにシンボルツリーとして植樹された巨大なオリーブの木はわざわざ海外から運んできたんだとか言う豆知識も織り混ぜつつ、まるでツアーガイドのように、彼は僕を楽しませてくれた。

聞けば、道端で知らない花を見れば家に帰って植物図鑑を開いて調べることが趣味になっているという。

しばらくそんな話を続けていると、

「木蓮とコブシの見分けかたはわかりますか?」

彼からそんな質問を投げ掛けられたところで、残念なことにタクシーは目的地に到着した。

答えを持ち合わせていなかった僕は、家に帰って自分で調べてみることにした。初めての経験だった。

都内の植物なんて、整備された桜並木や庭園くらいしかまともに鑑賞したことがなかったことが、何だか気恥ずかしくなってくるような不思議な体験だった。

けれど、

楽しもうと思えば、景色の見えかたも変わってくる。

そんな当たり前のことを思い出させてくれる人生の先輩に出会えた、素敵な午後だった。

そんな彼に影響されて、僕は先日バジルの苗を買って自宅で育て始めた。

食用にも使えて手入れも簡単そうなものを、という安易な理由で選んだヤツだけれど、だんだん愛着が沸いてきた。

植物を楽しむことで広がる世界の入り口を教えてくれた運転手さんへの感謝しながら、まずは目の前のバジルを大事に育てていきたい。